乾燥断熱減率:Dry Adiabatic Lapse Rate


ここでは、FAA自家用操縦士学科試験問題の中から、質問の多い問題を解説しています。

 

今回は、気象の問題です。

 

例題

367. I25 PVT
What is the approximate base of the cumulus clouds if the surface air temperature at 1,000 feet
MSL is 70 °F and the dewpoint is 48 °F?
A) 4,000 feet MSL.
B) 5,000 feet MSL.
C) 6,000 feet MSL.

 

標高1,000フィートで気温70 °F 露点温度48 °Fの場合、積雲の雲底高度を求めなさい。

 

予備知識

華氏と摂氏の関係(Fahrenheit to Celsius conversion ):[°F]=9/5x[°C]+32

乾燥断熱減率(Dry Adiabatic Lapse rate ):空気中に含まれる水蒸気が飽和していない状態(霧や雨など凝結水分がない状態)では、高度が1,000フィート上昇するごとに温度が5.4°F(3°C)低下する。

露点温度(DewPoint ):水蒸気を含んだ空気を冷却した場合、凝結が始まるときの温度。

露点温度と高度の関係:1,000フィート上昇するごとに1°F露点温度が低下する。

 

 

 

問題の解き方

積雲の雲底高度(AGL)=1,000 x(気温-露点温度)/ (5.4-1)

 

上記の式に問題の数字を当てはめると、5,000ft AGLになるので、MSLに換算するために標高1,000ftをプラスします。

答えは、6,000ft MSL

 

Cumulus

Cumulus

 

解説

対流圏では、高度が上昇すると温度が低下します。その割合を気温逓減率といいますが、空気中に雲、霧など目に見ることが出来る水分がない(飽和していない)場合の減率を「乾燥断熱減率」といい、1,000フィート上昇するごとに5.4°F(3°C)低下します。

問題のように、地表で気温70 °F 露点温度48 °Fの場合、空気中の水蒸気が飽和していないため、霧などの凝結水分は地上で発生しません。もしも気温だけが低下して48 °Fまたはそれ以下になったとしたら、空気中の水蒸気が凝結して目に見える形で外に出てきます。

雲が出来始まる(雲の底)高度は、まさに温度が露点またはそれ以下になった場合です。
ということは、露点温度に達する高度を求めれば、雲底高度を求めることが出来ます。

今、気温と露点温度の差は、70-48=22°Fです。乾燥断熱減率が5.4°F/1,000ftなので、約4,000フィート上昇すれば露点温度の48°Fになると思いませんか?

1,000 x 22/5.4=約 4,074 フィート

それに現在地標高の1,000フィートを加えて約5,000フィートが雲底高度になると思いませんか?

 

でも、正解は6,000フィートなのです。

 

その理由をこれからお話しします。

 

今、地表で気温と露点温度の差は22°Fあります。この状況で気温だけが22°F低下すれば、地表に雲の底が出現します。しかし、実際には地表で温度を下げていき、露点に達するのではなく、「上空で」露点に達するということなのです。

上空は、地表に比べて気圧が低いのはご存知だと思います。
気圧が低いというのは、空気が薄いと考えることが出来ます。
空気が薄ければ、比率は同じでも、水蒸気の密度も小さくなるので、露点温度は地表に比べて低くなります。

1,000フィートにつき 1°F 露点温度が低下すると言われています。

 

そこで、前記の公式を見てください。

積雲の雲底高度(AGL)=1,000 x(気温-露点温度)/ (5.4-1)

CR: 5.4-14.4

 

乾燥断熱減率と高度に対する露点の変化の差を換算した数値(Conversion Rate)=4.4が高度上昇に対する温度低下の割合となります。

 

これで計算すると、

 

積雲の雲底高度(AGL)=1,000 x(70-48)/ (5.4-1)

 

22,000/4.4=5,000ft AGL

これに標高1,000をプラスして 6,000ft MSL

 

ところで、問題には「積雲」の雲底高度となっていますが、どうして積雲にこだわっているか分かりますか?

あと一つ、今回は省略しましたが「湿潤断熱減率」というのもあります。
フェーン現象(Chinook Wind)を説明するときなどに必要ですから、これもぜひ調べておいてください。

 

おわり