気化器凍結:Carburetor Icing


ここでは、FAA自家用操縦士学科試験問題の中から、質問の多い問題を解説しています。

今回は、航空工学の問題です。

例題

26. PLT136 PVT
With regard to carburetor ice, float-type carburetor systems in comparison to fuel injection systems are generally considered to be

A) more susceptible to icing.
B) equally susceptible to icing.
C) susceptible to icing only when visible moisture is present.

日本語訳

26.  PLT136a PVT

気化器凍結に関して、フロート式キャブレータ装置を燃料噴射装置と比較した場合、一般的に考えられることは、

A) アイシングを起こしやすい
B) 起こりやすさは変わらない
C) 空気中に目に見える水分が存在する場合は起こしやすい

解答

A) アイシングを起こしやすい

解説

レシプロ航空エンジンの燃料供給装置には、従来のキャブレーター(気化器)式とインジェクション(燃料噴射装置)式があります。

大きな違いは燃料を噴射する場所で、キャブレーター式は気化器内部のベンチュリ―付近(図7-10)から負圧で吸引されるのに対し、インジェクション方式では、シリンダーヘッドの吸気ポートに直接噴射が行われています。

7-10

7-10

キャブレーター・アイシング(気化器凍結)は、ベンチュリ―やスロットルバルブ部分が凍結し、混合気がエンジンに供給されにくくなる現象で、エンジンの回転数低下から始まって、振動、パワー低下、エンジン不調、最終的にはエンストにつながるため、操縦席のキャブ・ヒートレバーを引いて排気マニホールドの輻射熱を導入することにより、吸入空気の温度を上げて凍結を防止しています。

キャブレーター・アイシングが発生し易い条件は、

・外気温度70°F(21℃)以下
・相対湿度80%以上

これは、雨や霧などの目に見える水分がある状態でなくても、外気温度が氷点下でなくても発生することを意味します。極端なケースでは、外気温度38°C、相対湿度50パーセントで発生することもあり得ます。

7-11

7-11

気化器内部のベンチュリ―とスロットル・バルブ付近では、ベンチュリ―出口で減圧されたことによる温度低下と、ガソリンが気化するときに熱を奪うことにより、外気温に対して70°F(38°C)低下します。

インジェクション方式(コンチネンタル型)の場合

燃料噴射式の場合は、以下の6つのコンポーネントによって構成されています。

・エンジンによって作動する燃料ポンプ
・燃料/空気コントロール・ユニット
・燃料分配装置
・噴射ノズル
・予備燃料ポンプ(電動)
・燃料圧力/流量指示器

予備燃料ポンプは、エンジン始動前に燃料/空気コントロールユニットに燃圧を掛ける役目をします。

燃料/空気コントロール・ユニットはもともとキャブレーターのあった場所にスロットル・ボディーと呼ばれる空気の流量を制御するスロットル・バルブおよびベンチュリ―を内蔵した装置と、燃料の流量を制御するフューエル・コントロール・ユニットが装備され、操縦席のスロットル・ノブを操作するとスロットル・バルブおよびフューエル・コントロール・ユニットがケーブルやリンクで連動する仕組みになっています。これにより、スロットル開度に応じた空気と燃料の流量を制御することが出来ます。

7-13

7-13

フューエル・コントロール・ユニットで制御された燃料は、燃料分配装置(フューエル・マニホールド・バルブ)を通り、各シリンダーごとに装備された噴射ノズルに供給されます。ノズルは燃料をシリンダーヘッドのインテーク・ポートに噴射し、ここで初めて空気と燃料の混合気が生成されます。

キャブレーター式の場合、エンジン下部にインレット・マニホールドを介して取り付けられたキャブレーター内、つまりエンジンの熱が届きにくく減圧された環境下で混合気がつくられるのに対して、インジェクション式の場合は、エンジン付近の暖かい場所で混合気がつくられるためガソリンの気化が促進されるとともに、気化によるアイシングの発生が抑えられています。インジェクション式、特に過給機を装備したエンジンは気化によるアイシングはほとんど発生することはありません。ただし、空気取り入れ口やスロットル・バルブ付近のアイシングは気象条件によっては発生することがあります。

インジェクション式のメリットは、

気化によるアイシングが発生しにくい
・燃料の流れが良い(配管が加圧されているため)
・スロットルの追従性が良い(燃焼室近くで燃料噴射が行われるため)
・燃料の分配が良い(各シリンダーごとに噴射ノズルがあるため)
・冷間時の始動性が良い(燃焼室近くで混合気が生成されるため)

インジェクション式のデメリットは、

・暖気状態で再始動性がわるい
・地上運用や酷暑時にべーパー・ロックしやすい(熱で配管内の燃料が気化し噴射できなくなる)
・燃料切れでエンストした時に再始動が困難

まとめ

気化器凍結の原因は3つあります。一つ目は燃料が気化するときに温度が下がり発生するもの、二つ目は、スロットル・バルブの開きが少ないときに、通過した空気または混合気がベンチュリ―効果で減圧することで温度が下がり発生するもの、三つめは、空気中に可視水分(雨粒や霧など)があり、翼の着氷と同様に-10℃から0℃の過冷却水滴が空気取り入れ口に衝突することで発生するもので、この設問で質問されているキャブレーター・アイシングは、一つ目の燃料気化によるものです。ですから、インジェクション式の吸気系統が全く凍結を起こさない訳ではありません。あくまでもキャブレーター式とインジェクション式を比較した場合、どちらが燃料の気化によるアイシングを起こしやすいかという質問ですので誤解しないようにしてください。

キャブアイス発生の兆候は、固定ピッチプロペラ装備機では回転数の低下、コンスタント・ピッチ・プロペラ装備機では吸気管圧力の低下でわかります。OAT(外気温度)をモニターし、必要に応じてキャブヒートを作動させましょう。キャブヒートは発生した氷を溶かすという使い方ではなく、予防的に使用してアイシングを起こさせないようにするのが効果的です。

降下中などエンジンの出力を絞った状態で運用中は、キャブレーター・アイシングが発生しやすいので、キャブヒートを使用し、必要に応じて出力を上げる操作を行いアイシング対策を取ってください。

以上