オートローテーション降下:Autorotative Descent


ここでは、FAA自家用操縦士学科試験問題の中から、質問の多い問題を解説しています。

今回は、ヘリコプターの問題です。

例題

620. PLT175 PVT
Which is a precaution to be observed during an autorotative descent?
A) Do not allow the rate of descent to get too low at zero airspeed.
B) Normally, the airspeed is controlled with the collective pitch.
C) Normally, only the cyclic control is used to make turns.

 

 

オートローテーション降下中に気を付けなければいけないことは? という質問です。
答えは、Cの 「通常、オートローテーション中の旋回は、サイクリックコントロールのみで行う」ですが、その理由を以下にお話しします。

autorotation

autorotation

ヘリコプターは、エンジンやテールローターシステムの故障時、コレクティブピッチコントロールをフルダウンの位置にすることにより、メインローターの回転数を維持しながら、グライダーのようにエンジンの出力が無くても安全な降下を行うことが出来ます。

 

オートローテーション降下中は上図右側のように、メインローターを下から上へ流れる空気がローターに揚力と回転力を同時に与えるので、たとえエンジンがストップしていてもローターが停止することなく揚力も失われることがありません。

話は変わりますが、テールローターの主な働きはエンジンがメインローターを回転させるときに発生するトルクを打ち消すことです。
しかしオートローテーション時には、ワンウエイクラッチによりエンジンの出力が切り離されているため、エンジンのトルクを打ち消す必要がありません。
それでも、メインローターとテールローターはトランスミッションを介して繋がっているため、オートローテーション中はテールローターも回転します。

 

オートローテーション中は、機体もメインローターの回転方向と同じ向きに回転する力が働きます。これは、メインローターを支えているベアリングやトランスミッションの抵抗が機体に作用するためです。

 

そのため、オートローテーション中はメインローターの回転方向と逆にペダルを踏み、ヘディングを進行方向に合わせる必要があります。

オートローテーション中は通常、ペダルはヘディングを進行方向に合わせるためだけに使っています。

ヘリコプターはオートローテーション中、旋回するためにペダルを操作すると、相対風が機体の側面に当たるようになり、空気抵抗が増加し対気速度が低下するため、機首が下がります。
どうして、対気速度が低下すると機首が下がるかというと、多くのヘリコプターがピッチ軸の安定性を持たせるために、重心位置をローターマストの少し前方に置いているためです。

 
ヘリコプターの水平安定板の断面を見ると、翼型が逆になっているのをご存知の方も多いでしょう。
前進飛行中は、相対風により水平安定板に下向きの力が加わり、この力が前寄りに設定された重心による機首下げモーメントを打ち消して、ヘリコプターの水平姿勢に保つようになっています。

 

 

対気速度が減少すると、水平安定板を下向きに押す力も減少するので機首が下がるというわけです。

これは、ヘリコプターを「空力的に重い」状態にして、ピッチ軸に安定性を持たすために設計された仕組みですが、オートローテーション時には操縦に悪影響を与えてしまいます。

オートローテーション中に対気速度やピッチが変化すると狙った位置に着陸することが難しくなってしまいます。
したがって、オートローテーション中の旋回は通常、サイクリックコントロールのみを使用します。

 

選択肢Aは、エンジン出力を伴った通常時であれば、Vortex Ring State (セットリング・ウイズ・パワー)を防止するために必要なことです。「対気速度が0に近いときに降下率を大きくしすぎる」と、自身が作り出す下降気流に入ってしまうため揚力を失うことがあります。ただし、オートローテーション中はその心配はありません。

選択肢Bは、「サイクリックピッチコントロールは対気速度を調整するのに使用する」に直せば正解です。

 

最後に、固定翼機では、対気速度をいつも注意して飛行しなければいけないように、回転翼機は、飛行中どのようなときでもローターRPMを100パーセント付近に維持することが大切です。

 

おわり